第一楽章「原発」
原発事故さえなければ こんなマッチ箱みたいな家に住むことはなかった
この歳で 都会に出ても 右も左もわからない 知り合いもいない
戻りたいけど 戻る場所がねえんだ
小さい頃 木登りした近くの山で孫二人を遊ばせたかった 山には入れないのが悲しい 原発さへなかったらな 悔しいよ まったく・・
原発はおれから農業を奪った トラクターやコンバインはもういらない また米作りをしたいけど 現実を見るにつけ やる気がしぼんでいく
がっくり来た ベコ(牛)とひっそり暮らしてきたのに もう何もしたいとも思わなくなった
村の家には 裏に崖があって そこから滑り降りるのが楽しかった
秘密基地もあった また遊びたいなぁ
他の高校に間借りして勉強している やりたかったバスケができない 原発事故で思い描いていた高校生活が壊されてしまった 校庭で運動会ができないまま卒業する
一時帰宅のたびに家が朽ちていく つらい 人生が狂ってしまった
朝3時に起きてブロッコリーを収穫し 夏には深夜までトルコキキョウを育てた
美味しい野菜を作る夢があったから頑張れたのに 一瞬で壊れた 今までの苦労はなんだったのだろう
40年間作ってきた豆腐を また食べたいという人がいます きれいな水と空気が戻れば また作りたい
山で木を育て炭を焼きキノコを作った 放射能のせいでおしめえだと思った
でも諦めねえ 山林の除染には時間がかかるけど・・
(歌)
何度朝が来ても、窓を開けて、空気を胸一杯吸い込むのが怖いです
深呼吸を忘れました
それでも、ここで死にたいのです
買ってくれなくても、野菜や果物を作る生活がしたいのです
ここが私の故郷だから
第二楽章「津波」
津波で亡くなった夫が夢に出てきました 見たこともないほどの笑顔で
何で逃げなかったの と言っても ニコニコしていた
子どもを守れなかった。親でねえべっちゃ、あきらめきれないよ。一人前にするために遅くまで仕事してきた。今、何のためにいきているかわからない。大した家族じゃなかったが、俺にとっては最高だった
一番先に考えてたのは どうしたら楽に死ねるかってこと
インシュリンいっぱい打てば熟睡したまま死ねるんじゃないかと 毎日毎日考えました
寂しさは増してきた 何年か後も同じかも知れない 子どもたちがいなくなっても、親である事に変わりない 子どもたちが喜ぶことをしたい お父さん 頑張ってるぞって
(歌)
周りの笑顔があざけりに見え 慰めの言葉にさえ傷ついた
私の時計はあの日から止まっている クリスマスも正月も心から楽しめない
寂しいよ一人暮らしは、食事や酒のつまみも作るようになって、女房の有り難さが分かるようになった 4人分も長生きするから
結婚50周年 妻を津波で亡くした 毎朝線香を上げるたび あの日を思い出す
家族を亡くした友人が自殺未遂をした 死んだ方が楽 という気持ちは同じ
お金は要らない 女房が帰ってきて欲しい
津波を見ようと妻を残して裏山に登った 妻は3日後 がれきの中から見つかった 自分を責める 手が震える 夜は安定剤を飲まないと眠れない
最終楽章「光」
津波で流された自宅の方は見ないようにしている 辛いから
毎朝、笑顔で送ってくれた妻は流された
酒の量が多くなって ただ何となく生きている
泣きてえけど 上手に泣けねえ 涙が出ねえんだ 妻と娘の千空(ちひろ)を失った 習ったばかりのひらがなで 持ち物に名前が書いてある
これ見っと つれえんだ 生きたかったべなぁ 悔しい 辛い でも思って帰ってくるなら なんぼでも思うけど 無理だから すっかり忘れるんではなく 踏み出そうって・・笑顔をみると元気が出る 元気がでると 勇気がわく 負けてはならん
息子二人が揃って結婚する
津波に流された妻といつか長男の住む静岡へ遊びに行こうと話していたのにな
せっかくの晴れ舞台 見せたかったべな いまごろどこかで喜んでいるよな きっと
一人で部屋にいると 台所の方から「あきおぅ」とお袋の声が聞こえた
よほど心配だったのでしょう やっぱりこういう時に出てくるのは、母親なんですね おれも一つだけ聞きたいことがあるんですよ 溺死じゃないですか 最後は苦しかったかって 守ってやれなくて申し訳なかったって 今年は恐山へ会いに行こうと思っています
造船所のクレーンの上に逃げて助かりました
逃げる車が目の前で波にのまれて行くのに 何も出来なかった
来月から消防士になります 人を助けられるように心も体も鍛えます
(歌・エンディング)
あの日 母になった
娘が大きくなったら あの日起きたことをどう説明しよう
失われた命が 産まれてきた新しい命の中で 生き続けてると信じよう
素子 汐凪(ゆうな)智史(さとし)梨吏佳(りりか)重勝 チカ子
天国も雪降ってるのか?風邪引くなよ |