舞台チャンネル


「ブロンドに首ったけ」

 昨年、あの変わり者のホームレスを見ていただいてから、もう、1年がたとうとしています。今年は、ホームレスとはがらりとかわって、ハリウッドの大スター、メイ・ウエストになる、というお知らせです。
 メイ・ウエストといっても映画で活躍したのが1930年代ですから、あまり日本では知られていないみたいで、日本のビデオ屋さんには1本もありません。でも、アメリカでは、随分、若い人でも名前を知っています。というのも、彼女が、セックスシンボル、と呼ばれたからです。かといって、マリリン・モンロウや、ジーン・ハーローのような可愛い女優ではありませんでした。確かに映画で見ると、髪はブロンド、もの凄く胸が大きく、体全体が豊満で、目のお化粧も色っぽく、衣装もゴージャスで圧倒的です。ひと頃は、彼女の映画の出演料が高くて、アメリカの全ての女の人の中で一番収入が多かった、と言われるくらい映画はヒットしたのです。
 でも、彼女が、単なるセックスシンボルだけじゃなかったことは、彼女の映画の中のウイットのあるセリフや、男の人が喜ぶ“あぶなっかしい”セリフは、全部、彼女が書いたものです。
 映画に出演するまでブロードウエイに出ていたのですが、その脚本も全部、自分で書きました。
まだ、全くセックスなんていう言葉をみんなが口に出さない時代に『SEX』という題の芝居を書いて公演し、猥雑なセリフやシーンがあって、警察の検閲を受け、10日間も留置所へ入れられた事だってあるのです。
 彼女の『罪じゃないわよ』という映画の題名が書いてある映画館の前では「罪です」というプラカードを持った神父さんが尼さんや信者とデモをするという事もあったくらいなのです。こんな事が、ますます彼女の人気を高め、男の人にとってはたまらなかったのでしょう。
淀川長治さんが生きていらしたら、彼女の事を何ておっしゃるかと思って調べたら、ひとこと「メイ・ウエスト。彼女は大姐ごね。こわいですね」と、ありました。
 確かにものに動じない不思議な女性であったようです。
最近アメリカで「メイ・ウエストは本当は男だったらしい」と、ヒソヒソ話も出ています。
ちょっと噂のあったケイリー・グラントが生きていたら聞いてみたいですけど。
 「私をセックスシンボルと呼ばないでください。私はセックスパーソナリティなんですから」と自分のことを言っています。そして、面白いことに、そんな女優でありながら経済観念が発達していて、投資もしたし、1セントの行方までも、きちんと知っていました。
好きな男性のタイプは筋肉隆々の人、と限られていました。しかも驚くことに、芸歴は80年と言われるくらい長く(というのも、7歳くらいの時に、もうコンテストに出て優勝し、ボードビルの世界に入ったのですから)そして77歳の時に『昔マイラは女だった』という映画に出演し歌も歌い、85歳の時に『セックステット』(注・六重奏の彼女流のしゃれ?)という、ウエディングドレスを着て6人目の若い旦那さんと結婚する役で、映画で主演を演じ、2年後の1980年、87歳で亡くなりました。見方によっては、性の解放者、真の自由人といえる人。これがメイ・ウエストです。
 こんな人を私がやれると、お思いになりますか? 多分、誰だってメイ・ウエストになんて、なてっこありません。ところが、この『ブロンドに首ったけ』という脚本は、うまく出来ていて、私の本役はメイ・ウエストおたくといってもいい売れない女優で、図書館の映画資料室で働く、やはりメイ・ウエストの大ファンの男性と知り合い、二人でメイの話をしているうちに段々と、私はメイ・ウエストになり、彼はメイ・ウエストが関わったいろんな男性になる、という面白い設定になっているのです。図書館勤めの男性を、昨年はホームレスの私を15年間も庭に住まわせてくれた劇作家だった田中健さん。そして、メイが、唯ひとり結婚した男性や、その他の色んな、いくつもの男性の役を団時朗さん。どうも田中さんと団さんで17役くらいやるらしい。昨年の、汚いホームレスも、早変わりが凄かったですが、今回は、綺麗なゴージャスな衣装の早変わりですから楽しみです。ワクワクします。うまくいくように、お祈りくださいね。
 演出はいつものように、お見事な高橋昌也さん。いつもと違うのは、装置があの妹尾河童さんです。きっと面白いことを考えてくださるのでしょうね。そして、ボードビルの振り付けなどを竹邑類さん。『屋根の上のヴァイオリン弾き』の初演のとき、屋根の上でヴァイオリンを弾いて凄く感銘を与えた才能あふれる踊り手、振り付けの大先生なのです。衣装の黒須はな子さんが、あのハリウッドの豪華中豪華なメイ・ウエストの衣装!ためいきが出そうです。メイ・ウエストはダイヤモンドが大好きだったそうですが(たいてい誰でもすきですが)あのゴージャスな宝石類のデザインは、いつものように、宝飾デザイナーの森暁雄さん。その他、スタッフは超一流のみなさんです。「いくつになっても、女はセクシーじゃなくちゃダメなのよ」と腰を振ってたメイ・ウエスト!私たち女性も頑張りましょう。
 男性の皆さんから、夜公演をふやしてほしい、という声があって、今年は、昨年より夜公演が増えました。どうぞ、男性のお客さまも、お誘いくださいませ。
 いつも、」切符が取れない、という、うれしい文句を頂きます。どうぞ、見てくださるとお決めになったら、お早く申し込みください。そうそう、勿論、これも、いつものように沢山笑っていただけるはずです。では、お待ちしています。
 今年の夏は暑かったようなので、どちら様も、お元気でのりこえて下さいませ。

 2002年8月
   熱地獄のような、アフリカのソマリアから帰ってきた日に!
                                  黒柳徹子

 


戻る