舞台チャンネル


「喜劇 キュリー夫人」

喜劇がお好きな皆様へ

 今年は、キュリー夫人が、ラジュームを発見してから、丁度、百年になるそうです。その記念に(というのもへンですが)、舞台で、どうやったらラジュームというものが取り出せるか!それをお見せする「喜劇キュリー夫人」への、お知らせです。

 私たちは、キュリー夫人というと、物静かで、冷静で、頭が良く、ノーベル賞を二つも取った凄い物理学者だ!という風に思っていますね。事実、そういう面もあったでしょう。特に、最愛の御主人を若くして、亡くしてからは。

 でも、この芝居は、その前の、ポーランドからパリに出て来て、男の世界だと、みんなが思っていた物理学の分野に足を踏み入れた、勝気で、生き生きとしたキュリー夫人の話です。そして、夫婦愛の物語です。お互いを尊敬しあい、励ましあい、理解しあい、そして愛しあった二人でした。
そう、そして、すべてに於いて、全く同じ価値観を待った二人でした。これほど理想的な夫婦がいたなんて!偉人伝ではありません。素晴らしい夫婦愛の芝居です。科学者として同じ目的を持った。

 キュリー夫人には、二人の娘がいました。次女のエーヴは「キュリー夫人伝」という、伝記の中でも、最もすぐれた伝記といわれている本を書きました。そして、私にとっては、嬉しい事ですが、このエーヴの御主人が、ユニセフの二代目の事務局長だったのです。長女のイレーヌは物理学者になりました。この娘もノーベル賞を受賞しました。一家に三個も!しかも女性で!

 キュリー夫妻は、一切、発見したもの、作ったものの特許を取りませんでした。誰もが使えるように、という夫妻の人道愛からの考えでした。
(当時は、次々と新しいものを発見、発明した人たちが特許を取る大変な時代でした。)夫妻の考えは、ありがたいものでした。もし、一つの国が、一つの会社が、または個人が、ラジュームの特許を独占していたら。こわいことです。キュリー夫人は、それを感じていたのでしょう。ノーベル賞を受賞したとき、スピーチで、
「平和のために使ってほしい」と、言いました。

「彼女はいつも貧しかった。でも美しかった。」娘のエーヴは、そう書いています。フランス最高の演劇父、モリエール賞を受賞した脚本です。作者のファンウィックさんは、フランスから東京に、初演のとき見にいらっしゃいました。世界各国で上演されているのを見ましたが、日本の演劇は、初めてでした。(どんな芝居に出来上がっているのだろう。歌舞伎みたいにやるのだろうか?)見当もつかず、とても、こわかったそうです。でも青年劇場の、ベテランの皆さんの芝居を見て、まっとして、本当に楽しんだそうです。セリフは全部、わかっていらっしゃるんですものね。で、私については、へ自分でいうのもなんですが…)プログラムに、私のような個性を持った女優を見た事がない。もし、世界中で五人の俳優を選べといわれたら、ちゆうちょなく、その一人に私を選ぶ、と書いて下さいました。

現在フランスの劇作家の第一人者が、そうおっしゃって下さったのです。
(はっきりいって、私は舞台女優として、それまで、日本の批評家からは見放されていましたから、とても嬉しかったのです。)長くなりましたが、こういう芝居を、見にいらっしゃいませんか?という、おさそいです。

 NLTの「マカロニ金融」の初演出の、おさそいのお手紙を差し上げたのが、つい、この間だったというのに!でも、この「キュリー夫人」は、私が本当に好きな芝居です。物理や化学の勉強が大変でしたが。と、いうのも、演出の飯沢匡先生が、大学の教授の方々を、稽古場にお招きになって、「さあ、俳優のみなさん、勉強して下さい!」
と、おっしゃったからです。舞台上で、化学の実験もやります。キュリー夫人は、とても器用だったそうですが、私は、はっきり申し上げて、反対です。でも、いい具合に、一番難しい実験は、夫のピエール役の千賀さんが、やって下さいます。千賀さんは器用で、とても信頼できる方なのです。

私は、もっぱら肉体労働です。どんな労働かは、ご皮下されば、「わぁ!」と、お思いになるでしょう。何年間も、仕事に対して情熱を持ち続ける、という事の素晴らしさも、見て頂けると思います。青年劇場の皆さんも、ピッタリの配役です。

 昨年の「ライオンのあとで」は、お陰様で、毎晩、拍手が鳴り止まないカーテンコールでした。カーテンコールで、なぜか涙が止まらなかった、と、おっしゃって下さったお客様が多かったです。男女ともに。あの拍手は、そのまま、(片足を無くしても、まだ舞台に出続けたサラ・ベルナールに!)と毎晩、思っていました。ありがとうございました。

 毎度のことですが、なるべく早く切符を御注文下さるよう、お願い申し上げます。「電話がお話中で!」と、お叱りを受けますが、みんな、なんとか、来て頂きたいと、心を尽くしておりますので、お許し下さい。実験など、ご覧になりたい方は、どうぞ、オベラグラスを、お忘れなく。そして、喜劇だ、ということも、お忘れなく。

 では、お待ち申し上げております。

黒柳徹子

1998年・夏

「マカロニ金融」の初演出が、大詰め。そして、反政府ゲリラに誘拐され、子どもが、少年兵にさせられている国。エイズの問題が、世界で最も多い国の一つ、ウガンダに出発する前に。

 

お問い合わせ
銀座セゾン劇場 03(3535)0555


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