「マスタークラス」再演へのおさそいです。 この「マスタークラス」は、ブロードウエイで、トニー賞をいくつも取った作品です。私は、たまたま四年前、ユニセフでハイチに行った帰りに、乗り換えのためニューヨークに、一日だけ寄り、その晩、初日を見たのです。 そして見終わった時、「ぜひ、これをセゾンでやりたい」と思いました。そこにすばらしい女性を見たからです。 そこで、その夜、セゾンの芸術監督の高橋昌也さんにFAXを送りました。 「マスタークラスやりたし」 そして、おととしの秋、上演の運びになりました。演出は、森繁久弥さんの「屋根の上のヴァイオリン弾き」の日本公演の演出、振り付けをして成功させたサミー・ベイスさん(私も初演に出演していたので、彼の才能を、その時見ていました)。 そして、オペラ歌手の出演のみなさんの好演もあり、私は、この「マスタークラス」と、その年の春に出演した「幸せの背くらべ」の二つの演技に対して、毎日芸術賞、読売演劇大賞の最優秀女優賞と大賞を頂きました。 嬉しかったです。だって、こんな大きな賞をいちどきに二つもなんて!! 今回はその再演です。演出、キャスト、すべて前回と同じです。私は、とても怖いけど、楽しみにしています。再演は何時の場合でも怖いものです。 でも、「幸せの背くらべ」も、すでに再演しましたものね。 マリア・カラスは、今世紀最高のオペラ歌手でした。歌いながら俳優のような演技を、オペラに持ち込んだ最初の人といわれています。オペラ歌手として、歴史に名前の残る人です。 一方、一年半くらいの間に四十キロ以上も体重を減らし、「パッ!」と見たところ、KONISHIKIさんからオードリー・ヘップバーンになったくらいの変貌をとげたことでも有名です。 そのカラスが引退を発表した後、ニューヨークのジュリアード音楽院で、選ばれた何人かの若いオペラ歌手を教えました。それが「マスタークラス」です。それはCDになっていますが、それを基に、彼女の熱狂的なファンだった、テレンス・マクナリーが芝居にしました。若いソプラノ歌手やテノール歌手に、彼女がどんなレッスンをするのか、それは、それは、皮肉たっぷり、笑いたっぷりの芝居です。 マリア・カラスが、世界一のお金持ちといわれたギリシャの船舶王、オナシスの恋人だったのは有名ですが、彼からの結婚の申し込みを待っていた彼女が、突然、世界中の見守る中、大失恋をしました。 オナシスがJ・Fケネディーの未亡人、ジャクリーヌと結婚してしまったのです。歌とオナシスしか人生になかったカラスには、何が残ったのでしょう。 その大事件の後の「マスタークラス」です。 この「マスタークラス」は、セゾンの上演中から、「再演を!」という希望が出ていました。切符が売り切れてしまったこともありましたが、カラスのファンが、これほど沢山いらっしゃったのだ、ということも、改めて知りました。 スキャンダルばかりが目立ったマリア・カラスが、これほど歌に、芸術に真剣に取り組んでいたのだとは、長い間のカラスのファンだった私も知らないことでした。 彼女は無類のケチで、小さい、手の中に入るくらいの鉛筆削りの、「替え刃を買ってきてほしい」と女友達に頼むような人でした。「この広い世界に、そんなことを考える人は、彼女以外にいない」と、その女友達は書いています。 でも、教えることにケチではありませんでした。彼女の持っている全てを、教えようとしました。彼女の言う、ひとこと、ひとことが、私たちの心を打ちます。すごく笑わせながらです。 「強く生きていくこと」 「努力すること」 「情熱を持ち続けること」 オペラに関心がある方は勿論、関心のない方にも、ご満足頂ける作品だと、自信を持ってお薦めします。 私のセリフの量?私の脳の限界を超えています。 でも、マリア・カラスの勉強に比べれば、そんなものは何でもありません。 では、皆様、心からお待ちしています。 平成十一年一月十一日(あら、あら、おめでたく一が並びました) 日本の子供たちの、心の荒廃が心配されています。 (小さいときの育て方が間違っているのだろうか?) そんなことで、また「窓ぎわのトットちゃん」が、お母さんや先生達に 読まれ始めている、という、嬉しいような、胸が痛いようなニュースを手にした日に。 |