舞台チャンネル
「ポンコツ車のレディ」
もう、秋のお芝居のお誘いの季節になりました。昨年の『レティスとラベッジ』での、みなさまの笑い声と拍手が、まだ、そのまま残っているような劇場に、また、おいで頂ける。本当に幸せです。 さて、今年の『ポンコツ車のレディ』は少々かわっています。勿論、これまでも風がわりな、面白い人間を、色々やらせて頂いて来ましたが、なんと今回、私はホーム レスです。しかも、ヘンな色のバンを運転して、その中で暮らしているホームレス。形容しがたい性格で、孤高かと思えば自分勝手。純粋かと思えば、「ちょっと駐車さ せて頂いていいかしら」と、人の家の庭に、自分のポンコツのバンを停めて、そのまま、そのまま、十五年も居ついてしまうというズルがしこい女性。 でも、これ実話なんです。英国の劇作家の、アラン・ベネットという人の庭に、このホームレスは、ズルズルとバンごと十五年も住んでしまいました。不思議な友情だって生まれます。 アラン・ベネットはこの話を随筆に書き、ラジオに書き、そして、芝居にしました。それでも、まだ、イギリス中の人気になったという作品です。自分を、レディだと思い込んでいる、このホームレス。「まあ、面白いですね。こわいですね。迷惑ですね。でも、ちょっと、会ってみたいですね」淀川長治先生なら、こうおっしゃるかも 知れません。 日本には、あまり女性のホームレスは見かけませんが、ニューヨークなどでは、全財産を、いくつものショッピングバックにつめこんで持って歩いているので、「バッグ・レディ」と呼ばれている女性のホームレスが、かなり前から有名です。かわっていて、人づきあいが悪く、気ぐらいが高いのが、共通しているようです。そこが、「おばさん」ではなく、皮肉をこめて「レディ」と呼ばれているところ でもあるのでしょう。 今まで、私がやって来た、どの役とも違います。うまく出来るといいのですが。庭を占領されたアラン・ベネット役を、柴俊夫さんと田中健さんの仲よし二人が演じるのも見どころです。二人で一人?まあ、人間には、色々な面がありますものね。魅力的で、油ののっている、ハンサムなお二人とご一緒できるのも、本当に楽しみです。 今回は、衣装がどうなるか、黒須はな子さんのアイディアを待ちましょう。はな子さんは、私が女優サラ・ベルナールをやった『ライオンのあとで』 の衣装で、伊藤喜朔賞という最高の賞を受賞した、才能の上に研究熱心で妥協しない、という見上げた芸術家なのです。 照明の沢田祐二さんも、このところ、ずっと御一緒の、デリケートでドラマチックな世界を作って下さる超一流の方です。演出の高橋昌也さんは、最近、俳優としてテレビなどでご活躍のお姿をごらんの方が多いと思います。得がたい俳優さんなので、みんな喜んでいます。 今回の、この大変な作品を、 どうまとめて、いつものように詩情豊かなものにして下さるのか、期待しています。 それにしても、去年のレティスといい、こんな面白い役が、よくあるものだと感心し、この『ポンコツ車のレディ』も、あまり好きな言葉ではりませんが、いま風にいえば「はまりそう」という感じです。 昨年は、劇場名も変わったり、色々、切符を手に入れて下さる方法もかわったりで、ご迷惑をかけました。今年は、もう少し、うまくいくと思います。どうぞ、お揃 いで、笑いにいらして下さい。そして、女性のお客さまなら、きっと、どこかで、ハンカチ…という事にも、なるかも知れないのです。では、そのとき、お待ちしています。 20001年7月 長くつづく混乱と、最近の干ばつのため、何十万という大人や子どもが、難民にな って近隣の国々に逃げ出しているアフガニスタンの視察に出かける前に日に!
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