舞台チャンネル


「ローズのジレンマ」

 喜劇が好きな皆様へ こういう、おさそいのお手紙を出すのも、15年目になりました。そうなんです。今年は、私がセゾン劇場(いまの ル テアトル銀座)に出させて頂くようになって15年になるのです。第1回の“レティスとラベッジ”の観光ガイドの役から始まって、随分、沢山の面白い役を見て頂きました。アメリカ西部で最初に自立した女性“カラミティ・ジエーン”。“リリーとリリー”はハリウッドの大スターと田舎牧師の妻という双子を早がわりでやりました。駅前ホテルに泊まる女客、八人・・。伯爵夫人。娼婦。おのぼりさんの主婦。成金の名古屋弁のオバさん(実はマルサ)。刑務所から出てきたばかりの悲劇的な女性。ひどい出歯でドジな女スパイ。ギャングの情婦。そしてホテルのメイド・・・。早がわりでストッキングをはきかえると指紋がすり切れるものだと知ったのも、この“シャンブル・マンダリン”でした。あと、オペラ歌手のマリア・カラス。フランスで国葬にもなったサラ・ベルナール。アメリカの大スター、マレーネ・デートリッヒ。苦労の末にラジュウムを発見したキューリー夫人。あなたの本当の幸せは、いつでしたか?と問いかける“幸せの背くらべ”では、92歳の半分、呆けたおばあさん。実話にもとづいた、イギリスのホームレスの人生、“ポンコツ車のレディ”。ハリウッドのセックスシンボルといわれたメイ・ウエスト(バストが評判になりました!)。まだありますが、ざっと思い出しただけでも、こんなに凄い女性になりました。なんという幸せな人生でしょう。そして、いつもお客様は、ご親切に、大勢で来て下さって、笑って下さったのです。時には、泣いても下さいました。

さて、今年は、今までに一度もやったことがない役、女流作家の役です。ピューリッアー賞をとった売れっ子作家です。でも、風変わりで、手がつけられない所もあります。なによりも大変なのは、30年近くも一緒に暮らし、彼女に書くことを教えてくれた恋人が死んでしまったことです。彼女は何も書く気にならなくて、秘書は収入がないので困りはてています。とはいうものの、死んだ恋人は、彼女の前に現れて色々と相談にのります。この恋人は、彼女も尊敬するハードボイルドの作家だったのです。そして、愛しあった二人なのです。二人の会話は知的です。ちなみに、この脚本はニール・サイモンです。かって、私たちが、“口から耳へ、耳から口へ”で、700回以上も笑って頂いた作品を書いた人です。でも、今回は、ちょっと違った作品です。勿論、会話は洒落ていますが、内容はロマンチックでもあります。とにかく、幽霊は、お金がない彼女に秘策を打ち明けます。自分の未完成の作品がある。あと40ページ書けば完成。それをベストセラーにしてはどうか、とすすめるのです。「でも、作風が違うので、君一人では無理だろう。若い作家をもう捜してある」。 そして、その作家が登場して・・・。と、一息で言うと、こういう筋書きです。そして、芝居には一切でてきませんが、どうやら、この女流作家は、映画になった“ジュリア”や、“噂の二人”などの劇作家、リリアン・ヘルマン。男性は、“マルタの鷹”などのハードボイルで超人気だった、ダシール・ハメット。この二人がモデルのようなのです。こんな、しゃれた芝居ってあるでしょうか。一切、それは芝居にでてきていないんです。でも、ニール・サイモンは、なんとかして、この二人のことを芝居にしたかったのでしょう。大ヒットを出し続けたニール・サイモンが、常に心にあった、この二人の、誰も知らない心の交流を遂に書いた、ともいえるかも知れません。「そんな二人のことなんて知らねえ」という方も、勿論、大歓迎です。だって、この二人のことを考える必要はないんですから。笑って頂ければ、私は、うれしいんです。

夜な夜な現れる死んだ恋人は、岡田真澄さん。“夢で逢いましょう”の昔からの友達。共演できるなんて、こんなうれしい事はありません。そして、ユーモアたっぷりの秘書には、川上麻衣子さん。スエーデン育ちの川上さんは、ユーモアに溢れた面白い話の持ち主です。そして、若い作家には、うじきつよしさん。彼の、色々なテレビドラマでの演技に、私は感動し、何度も彼にそのことを伝えて、拍手を送ってきましたから、今回は楽しみです。忙しいテレビをやりくりして下さいました。演出はいつものように高橋昌也さん。すごく張り切っていらっしゃるので、私もワクワクです。衣装は、私が、いつも大ファンの黒須はな子さん。スタッフはいつものように超一流です。ご期待下さい。長くなってしまいました。チラシだけお送りしても、おわかり下さるでしょうに、どうしても、こんな風に、お話がしたいのです。そう、ローズは女流作家の名前です。ジレンマは見て下されば、わかります。では、お待ちしています。いつもの事ながら、切符は、なるべく早く、お手配下さいませ。「いつも売り切れで買えないから」なんて噂で、トライして下さらないかたがいらっしゃると聞いてショックです。どうぞ、よろしくお願い致します。

暑い夏ですが、みんなで、のりきりましょう。では、お待ちしています。

2004年 夏

   内戦の続くアフリカのコンゴ民主共和国に出発する前に。
   日本の方が、アフリカより暑そうで
   なんか申し訳ないですが、行ってまいります。

                    黒柳徹子


 


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